しあわせの話。

しあわせになれる方法の話ではないです。しあわせという人の話です。「しあわせ」という名前の前座がいたのです。彼は大変に愉快な人だったのですが、噺家は廃業いたしております。彼とは前座時分に色んな思い出がありますが、何気ない事を覚えてるものです。

私たちは真打の披露目があると寄席に後ろ幕という大きな幕をかけます。これは前座の役目です。その日はしあわせと一緒に幕をかけていました、しあわせが脚立にのって幕をかけようとすると脚立がグラグラと揺れました。それに合わせて落ちないように、しあわせが体をくねくね揺らしました。そして落ちました。

落ちた時の音が

ビターン!!

紛れもなく「ビターン!!」だったんです。それしか表現できない音です。生まれてはじめて聞いた音でした。そういうふとした事を覚えてるものですね。幸いにも彼にはケガはありませんでした(しあわせだけにね)。

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